就労アセスメント・応用編

就労アセスメント・応用編 1

アセスメントの基本

職業的アセスメントと就労アセスメント

アセスメント(assessment)―「査定すいる」「評価する」

  • 職業的アセスメント―職業的な成長を支援するために用いることが必要なため、アセスメントした結果を職業的な探究活動などにつなげることができるように、具体的な作業、模擬的作業を系統的に実施する一連のプロセスから構成されています。
  • 就労アセスメント―就労継続支援B型事業の利用者に対して就労移行支援事業所などが行う就労面のアセスメントであり、職業的アセスメントのひとつです。

観察評価

 アセスメントを実施する際に、最も重要となるのが「観察評価」の観点です。チェックリストの参考、標準化検査、ワークサンプルなどのアセスメントツールの活用が有効です。観察評価を実施する上で必要な知識は以下の3つです。

職業準備性

 「職業生活に必要な個人的な諸能力が用意されている状態」と言われるものです。個人と環境の関係性を観点として持つ就労支援において重要な視点です。就職に必要な獲得すべきスキルなどの束として、企業で働くためのハードルとしてではなく、社会の中で役割を果たすための支援の視点として用いることが支援上有効です。日々の就労支援では、目の前のスキルの獲得にとらわれてしまいがちですが、働く環境によっては求められるスキルは異なり、必要な支援や配慮によって代替して得ることを念頭におき、対象者の将来的な可能性(キャリア発達)を見据えて職業生活を営む際の役割を果たすための事項として参照することが有効です。

 職務の遂行に関連するスキル(パソコンが打てる、掃除ができる)

十分に遂行するため

  • 職業生活の遂行―あいさつなど
  • 日常生活の遂行―通勤、身だしなみ、生活維持など
  • 疾病や障害の管理―服薬管理、睡眠管理など

 職業準備性の観点から日ごろの就労支援を見直してみることで、その職場でスキルを身に着けるための素地(行動の芽生え)を生み出すような支援が事前に必要であることが分かります。

システマティック・インストラクション(Systematic Instruction)

  就労支援の技法の一つで、就労支援における作業指導の方法。観察評価の基本的な方法です。

 この技法は、利用者に最も適した指示(プロンプト)を出すことで、効率的に、かつ、難しいことを失敗することなくできることを目指す方法です。

最も適した指示―最も適した指示を出すためには、利用者の作業動作や半島脳から作業遂行力及び作業理解の状況などをアセスメントすることが不可欠です。

作業指示の理解(介入度低→高)
  • 言語指示(Verbal Instructions)―言語に基づく指示
  • 身振り(Gestures)―指さしなどの非言語的な動作に基づく指示
  • 見本の提示(Models)―具体的な作業動作を見せる
  • 手添え(Physical Assists)―手を添えて動作を補う
補完方法

 観察評価は、評価された結果を支援に役立てるという観点が大切になります(「できる」「できない」などの判断をするわけではない)。苦手さを補うような支援ということができます。観察評価では、この補完方法を明らかにすることが重要です。

 例:どのような支援があればできるのか、どのような条件が重なったときにスピードが上がるのか

  • 補完行動―利用者自身の行動によって、自分の障がいを補う方法。例:読み上げ確認、復唱、レ点チェック
  • 補完手段―物品を用いて作業環境を構造化(整理してわかりやすく)する方法など。例:原稿における入力業を誤らないために「定規」を活用、見劣り防止のために「付箋」を張り付ける 
  • 他社による指導・支援―補完行動や補完手段の確立や維持、般化に向けた指導などをする形式の方法。例:作業ポイントを付箋に記入して本人が見える位置に貼る

アセスメントと自己理解

 利用者:自己理解の促進(自尊感情や人格形成等の人間の発達を支える重要な機能をもつもの)

アセスメントを通じて目指すこと

支援者:アセスメントによって得られた結果等のフィードバックの気づきの促し

重要点:アセスメント結果の取りまとめと結果の共有においては、利用者も主体的に参画すること(自己理解の促進に向けて、利用者も目的に向かって連携する者としてとらえなおすことが必要)です。

①結果共有の意義理解の促進

 なぜ結果を他社に共有することが必要なのか、どのように支援に活用できるかを十分に理解してもらうことを行います。十分に理解してもらうことで、利用者の主体性を引き出すという意図があります。

②自己内省

 単に障害特性について理解するのではなく、自らの得意なことや苦手なことについて、これまでの支援を通して、支援者と主に検討していくことが必要になります。その際には、他社からのフィードバックや秀でていることを単に探るのではなく、確実・安定的にできることを探すといった支援者との相談などのやり取りが重要になります。

③結果の取りまとめ ④結果の他社への共有

 利用者も結果を知り、どのような自分であるかを他社に伝えられるように言語化していくということです。結果を無理に言語化し、結果票やケース会議に資料を埋めるという発想ではなく、実際の体験などを通して作り上げていくという視点が必要です。そのため、施設内の作業場面だけでなく、施設外就労や企業実習のような職場実習などの場面も交えながら、自己理解を深めていくためのプロセスを重ねていくことが望ましいです。また、結果票や情報は、就労系障害福祉サービスの利用に至った際や、実際の企業就労への移行場面においても活用できると考えて作成するとよいでしょう。目的性をもって利用者と共同して作り上げる発想が必要です。

 アセスメントを単に情報としてではなく、アセスメント結果を就労支援において活用していくことが自己理解促進のひとつの方法になります。

マニュアルの活用方法

マニュアルの目的

  • 障害者がそれぞれに最も適した「働く場」に円滑に移行できるようにするため
  • 障害者がそれぞれの「働く場」で安定して働き続けられ、働く力を伸ばしていけるようにするため

 上記の支援は、支援対象者の就労能力や生活の状況を踏まえて行われる必要があるため、支援の開始に当たって、支援対象者の就労面や生活面に関する情報をアセスメントにより把握しておくことが不可欠です。

 上記の支援は、支援対象者の就労能力や生活の状況を踏まえて行われる必要があるため、支援の開始に当たって、支援対象者の就労面や生活面に関する情報をアセスメントにより把握しておくことが不可欠です。

実施上の留意点

  • 利用者に対する就労支援を行うにあたって必要な情報を把握し、利用者のニーズに応じたサービス等利用計・個別支援計画を作成する際に役立つ就労面や生活面の情報を提供できるようにアセスメントを行う
  • 利用者の種籠城の課題のみに着目するのではなく、利用者の将来的な就労能力の伸び(成長力)をアセスメントした上で、結果を利用者や保護者に必ず伝える
  • 単に通所の体験をしたり、作業観察のみに留まるのではなく、利用者に対して一般就労の意義や具体的な事例を知る機会を提供するとともに、一般就労や定着を支える支援機関についても情報提供を行い、一般就労への理解が促進される機会を必ず設定する。就労継続支援B型事業の利用を希望している利用者に対して、将来の一般就労への意向などの参考となる指針を得られる機会となるよう、アセスメントやカリキュラムの工夫を行う
  • 就労アセスメントは、就労継続支援B型利用の「可否」を判定するためのものではない。サービス等利用計画の作成や市区町村が行う支給決定の参考になるので留意する。そのため、利用者の本来のニーズや就労の可能性に着目したアセスメントを実施する
  • 就労アセスメントは、単に一般就労が可能かどうかをはんていするためのものではない。利用者自身の持つ「働く力」に着眼して、今後の就労支援に活用できるアセスメントを行う

基本的考え方

 地域で働くためには、生活面で安定することが重要です。将来、相談支援事業所など支援機関と連携しながら利用者が働きながら、暮らすことをイメージしてアセスメントを行うことが必要です。

 「働く力」が高い≠「生活の力」

 「働く力」「生活の力」が高い≠一般就労できる

 就労アセスメント―一般就労の可能性を、一定の基準を設けて「判定」するためのものではありません

期間設定の考え方

 標準的な実施機関は約一か月です。

(複数の作業を経験した上での比較、時間の経過による変化の観察、面談等を行い、利用者の竜郎能力の伸び、長所や課題を把握するために必要な期間を想定)

アセスメントの3つの時期
  • 「導入期」第1週目
  • 「適応期」第2~3週目
  • 「実践期」第4週目

支援者の役割分担

 各職員がアセスメントに向けた役割をそれぞれ担当することは、継続的に複数の視点からアセスメントができ、より目的に沿ったアセスメントが可能になり、それぞれの担当者に

管理者(全体の調整者)
  • 就労アセスメントに係る管理・統括
  • 就労アセスメントの実施に係る全体的な連絡調整・総括
サービス管理責任者
  • 各担当者の業務分担の調整
  • 就労アセスメントのための「個別支援計画」の作成
生活支援員
  • 自施設内における利用者の生活面のアセスメントの実施・記録
  • 家族や特別支援学校教諭等からの聞き取りや総合記録票による普段の生活面のアセスメントの実施
職業指導員
  • 自施設内における利用者の作業場面の観察等による作業面のアセスメントの実施・記録
  • 作業日誌の記録
就労支援員
  • 家族や特別支援学校等からの聞き取りや作業面のアセスメントの実施
  • 一般就労や一般就労を支える支援内容の情報提供
  • 進路希望の把握
  • 就労アセスメントの実施の際に施設外支援を行う場合は、実習先(企業等)への連絡や調整
  • 企業での作業指導や作業観察の実施
その他(各職員で分担する項目)
  • 最終的な就労アセスメント結果を検討する際の資料(総合記録表・アセスメント結果票)の作成

実施に当たっての事前準備

総合記録票

総合記録票を作成する際のポイント点

  • 利用者自身や保護者が就労に関して考えるきっかけとなる
  • アセスメント期間中に利用者と一緒に考えながら記入できる
  • 利用者自らが記入することも可能な質問・選択形式のシート
  • 利用者の状況に応じて必要な項目を選択できる
就労アセスメント結果票

就労アセスメント結果票を作る際のポイント点

  • アセスメントの結果の取りまとめ・整理ができる
  • 利用者が結果を視覚的に確認できる
  • アセスメント結果を支援機関同士で共有できる
就労系障害福祉サービスの説明資料

 アセスメント初日に、利用者が進路の選択をする際の参考となるような情報が得られるように配慮します。自事業者の説明のほか、「就労移行支援事業」「就労継続支援事業(A型・B型)」のサービス内容を説明する時間を設定するとよいと思われます。

 アセスメント初日に、利用者が進路の選択をする際の参考となるような情報が得られるように配慮します。自事業者の説明のほか、「就労移行支援事業」「就労継続支援事業(A型・B型)」のサービス内容を説明する時間を設定するとよいと思われます。

一般就労の支援内容等を説明する資料

  一般就労に関する定着支援も含めた支援内容や就労支援機関についての理解を促進するための資料として、動画の閲覧や事例紹介をします。

JEED

↑ハンドブックやマニュアルなどたくさんあります。

作業日誌

 作業日誌」(連絡ノート)を活用することも有用です。利用者や保護者との連絡を円滑にするだけでなく、1日のアセスメントが終了した後の家庭での利用者の様子を把握することもできます。

  • 作業や周囲の環境に対してどのような感想を持ったか
  • 疲労や健康の度合いによる変化があったか
  • 利用者や保護者がどのような認識でアセスメントに臨んでいるのか
  • どのように自己評価しているか などの把握
就労アセスメントのための作業課題

 作業課題はさまざまにあると考えますが、すでに事業所内にある作業などをうまく組み合わせて設定することが必要です。

就労アセスメント実施前の調整
  • アセスメントの日程や実施期間について、市町村、相談支援事業所、必要に応じて支援機関(特別支援学校等)と調整が必要です
  • 暫定支給決定期間内でアセスメント会議までの日程を事前に決めておくことで、保護者や関係機関の職員の参集が容易となります。